金持ちオジさんの憂鬱 〜旅人図鑑 3人目〜

沖縄の離島「波照間(ハテルマ)島」に行った時のこと。

日本最南端の有人島として有名なこの島は、自転車で1時間もあればまわりきれてしまうサイズ感と「ハテルマブルー」と呼ばれる美しい海、のどかなサトウキビ畑など、まさにボクが思い浮かべていた南の島だった。
気に入った所に通ってしまう癖を持つボクは、一時期頻繁に波照間島に行っていた。

何度目かの訪問の際に新しくできたゲストハウスに泊まった。
民家を流用した作りで男女別相部屋の素泊まりのみ、1泊1500円。

宿泊客は10人ほど。
民宿とは違い年齢層が若く20代前半の男女でにぎわっていた。

そんな中、ひと際目立つ関西弁のオッサンがいた。

歳は40代半ば。
全身どっぷり日焼けしていて髪はロン毛。

宿の庭のテーブルに島の売店で買って来た大量の泡盛とツマミを広げ、若者たちに呼びかける。

「おーいみんなぁ、ゆんたく(飲み会)するでぇー!」
「ワシ金持ちやから、遠慮せんと飲み食いしてや!ガハハ!」と。

身なりや言動からは金持ちの品格は微塵も感じられない。
大きな声でよくしゃべり、自分のギャグでガハハと笑う。

「こうして遊んでる間も金は入って来るんや」

「年収が億超えたら世界が変わるで」

金持ちアピールに余念がない。

怪しい。
その場のほとんどの人が話し半分で聞いていた。

そもそも、島の売店で買えるものなどしれている。
1000円ちょっとの泡盛を何本買ってこようが金持ちの証明にはならない。
若い女の子が沢山いたのでモテたいのか?

沖縄を旅しているとこのテのお調子者に会う事がある。
そういう時は話を合わせて一緒に盛り上がってしまえばいい。
怪しい人がいると良くも悪くも展開が面白くなる。

饒舌だったオッサンも日付が変わるころにはベロンベロンになっていた。
頃合いを見てみんなそれぞれの部屋へ戻っていく。

寝落ちしているオッサンに
「そろそろ寝ますよ」とひと声かけてボクも男子部屋へ。

しばらく経ってもオッサンは部屋に戻って来ない
また寝ちゃったのかな?
まぁ暖かいからあのまま外で寝ても大丈夫だろう。
そう思ってウトウトしはじめた頃、宿に悲鳴が響き渡った。

「きゃーーーーーっ!!」

 

驚いて廊下に飛び出ると女子部屋から声がする。

「入ってくんな!ジジィ!」

 

すぐにピンと来た。駆けつける。
女子部屋にたどり着くと案の定オッサンが侵入していた。

暗い部屋でかすかに揺れながらゾンビのように立っている。
特になにをするでもない、ただ立っている。
次の瞬間、ひとりの女の子が見事な蹴りをお見舞いした。
吹き飛ぶオッサン。

オッサンを引きずって男子部屋へ戻る。
布団に転がし「大人しく寝てくださいよ」と諭す。
もう目は開いていない、きっと明日には記憶もないだろう。

するとうわ言のようににポツリポツリと話し始めた。

 

「寂しい・・・」

 

「寂しいなぁ・・・」

 

「金なんかナンボあっても幸せとは限らへん」

 

「お前も金持ちんなったらわかる」

 

「寂しいわ・・・・」

 

このオッサンは本当に金持ちなのかもしれない。
いや、きっと金持ちなのだろう。

今のこの人となら深い話がしてみたいと思ったが
それっきり寝てしまった。

翌朝。
昨夜の醜態を聞かされたオッサンは、軽い調子で女の子たちに土下座をして、海で遊び、夜にはまた大量の泡盛とツマミを差し入れてガハハと笑っていた。

あれから十数年が経ち
ボクもあの時のオッサンの年齢に近づいて来た。

幸か不幸か今だに金持ちの気持ちは分かっていない。

 

 

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