肉まんと43万キロ 〜旅人図鑑 4人目〜


数年前の夏
ボクは北海道の遠軽町にある道の駅「しらたき」にいた。
うっかり始めてしまった「道の駅スタンプラリー」の為だった。

朝から雨が降ったり止んだりの冴えない天気、バイク乗りにはこたえる寒さ。
レインコートを着たまま、温かいものを求めて売店へ。
冷え切った身体を缶コーヒーと肉まんでリセットして、やっと人心地がついた。

しかし、すぐにまた走り出す気にはなれない。
外は夏とは思えない寒さなのだ。

濡れたレインコートで椅子に座るのも気が引ける。
あてもなく店内をウロつく。

「肉まん喰うか?」

 

突然の声に驚いて振り返ると
見知らぬジイちゃんが肉まん売り場の前に立っていた。

「喰うか?」

 

ぶっきらぼうに、もう一度聞いてくる。

よく見ればボクと同じくレインコート姿。
ライダーだ。

「今食べたばっかりなんです」と返事をすると
あっそう、という感じで肉まんを1つ注文した。

しまった・・・・ボクは思った。

お言葉に甘えるべきだった。
見ず知らずの他人にいきなり食べ物を買ってもらうなんて最高じゃないか。

普段の生活でコンビニに行って知らない人に「肉まん食べる?」なんて聞かれたら、うわ〜なんだこの人、何が目当てだ?と思ってしまう。

でも、今は違う。
旅先での出来事なら、それはいい演出であり
旅らしいひとコマとして、ちょっとした想い出にもなっただろう。
もったいない事をした。

 

外に出ると案の定バイクが1台増えていた
カワサキ750RS・・・Z2だ。

通称ゼッツーと呼ばれる40年以上前のバイク。
市場では数百万円でやりとりされる稀少車。
いかにもという感じのピカピカに磨かれたモノはたまに見かけるが、これは相当にヤレている。年季がスゴい。
高価なおバイク様としてではなく、旅の足として長年酷使されているのが見て取れる。

間違いない、あのジイちゃんのだ。

走行距離のメーターはおよそ3万キロ。
いや、それっぽっちのワケがない。
99999kmまでいくと00000kmにリセットされるから
何回転かしているのだろう。

物珍しげに眺めているとジイちゃんが戻ってきた。


「ボロいだろう?」

「はい、でもいい感じです」

「俺が初めて買ったデカいバイクなんだ」

「相当走ってますね、2回転くらいしてますか?」

するとジイちゃんはニヤリと笑って指を4本立てた。

4回転・・・じゃあ43万キロ!?
地球10周分だ。

そこまで走っているとは驚いた。
バイクは10万キロもいけば、相当走っている部類に入る。
20万キロだとかなりレアだ。

それが43万キロとは・・・

「手間をかければいくらでも走るんだよ」

そう言いながらシートに跨りエンジンをかける。
荷物満載のゼッツーが乾いたサウンドを響き渡らせる。

ボクはなんだか嬉しくなってカメラを構えた

「写真撮ってもいいですか?」

するとジイちゃんはもう一度ニヤリと笑い

「ダメだな」

 

と言って走り出した。

思わず笑ってしまった。
泥臭いのにスマートでカッコいい人だ。

ボクとは旅人としての次元が違う。
肉まんをご馳走してもらったら旅っぽくていいね、なんて安っぽいレベルではない。
ジイちゃんのあのぶっきらぼうな物言いからするに、いつもあんな感じなのだろう。そこに変な気取りや演出はない。自然体で旅を楽しんでいるのだ。

ボクがやっているのは旅人ごっこだ。

何度も同じところへ行き
知らない人に頑張って話しかけ
その場の空気を読んで会話をし
いい思い出作りに精を出す。

旅のための旅。

ボクは何年経ってもあのジイちゃんのようにはなれない。
目指すべき所だとも思わない。

旅のスタイルは人それぞれ
「ごっこ旅」でも楽しければそれでいい。

でも。

やっぱりちょっと羨ましい・・・
そんな気持ちで小さくなるゼッツーを見送った。

 

 

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