オークランドの救世主 〜旅人図鑑 5人目〜

2007年12月
ボクはニュージーランドの安宿にいた。
オーストラリアへのトランジットで立ち寄ったのだけれど、乗り継ぎが悪く、1泊しなければならなかったのだ。

初めての海外一人旅、英語はほぼしゃべれない。
翌日は朝イチの便なので、宿主のバアちゃんに身振り手振りで説明して、4時30分にタクシーが来るように手配をしてもらった。

オークランド空港までは車で20分ほど
万が一寝過ごしたら大変な事になるな・・・
そう思いながら眠りについた。

翌朝
腕時計のアラームで4時に目が覚めた。

いや、4時のつもりが5時だった。
痛恨の設定ミス。

宿の外に飛び出すもタクシーは影も形もない。
諦めて帰ってしまったのだろう。

まずい、これはものすごくまずい。

助けを求めようにもこの宿にいるのは自分1人。
宿主のバアちゃんは自分の家に帰ってしまっている。

薄暗い宿のカウンターを物色するとタクシー会社の名刺が出て来た。
携帯は使えないので宿の電話を拝借してかけてみる。

・・・・自動音声で何か言っているがまったく意味が分からない。

どうしよう、こうしている間にもフライトの時間は迫っている。

とりあえず荷物をまとめて外に出た。
あまりにも無力だ。やはり助けを求めるしかない。

隣にある別の宿の1階に電気のついている部屋があった。
もうなりふりかまっていられない。庭から入り込んで窓をノックする。
中には10代と思しき若い女の子が2人、ドン引きでこちらを見ている。

無理もない、こんな時間に庭から侵入するなんて怪しすぎる。

2人は警戒しつつも話を聞いてくれた。
しかし事の成り行きを英語で説明するスキルなどない。
タクシー会社の名刺を差し出し「空港行きたい」「タクシー来ない」「電話してほしい」というような内容をムチャクチャな英語で伝える。するとかろうじて通じたようで、携帯でタクシー会社にかけてくれた。

女の子はひとしきり自動音声を聞いた後に

「タクシーは来ないわ、残念だけど力にはなれない」というような事を言った(と思う)

タクシーは諦めよう
お礼を言ってその場を離れる。

残る手段はひとつしかない。
大きな道路に出ると、通りがかる車に向かって親指を立てた。

初めての海外でいきなりヒッチハイクをするハメになるとは。
日本でもやったことが無いのに・・・。

空はまだ暗く、車通りはまばら。
祈る思いで親指を立て続けていると6台目の車が止まってくれた。

運転していたのは30歳くらいのマオリ系の男性だった。
焦っていたボクはカタコトの英語でまくしたてた。

「空港行きたい」「急いでる」「プリーズ!!」

状況を察した彼は「OK早く乗るんだ!」と言い、車を発進させた。

彼はカヴァと名乗り、運転しながら握手を求めて来た。

空港まではなんとかたどり着けそうだ。
でもフライトに間に合うかはまだ分からない。

不安そうにしているのを察したのか、カヴァさんは気さくに話しかけて来る。

「大丈夫だよ、きっと間に合うさ」

「今日はどこに飛ぶんだ?」

「俺の奥さんは空港で働いててね、ちょうど迎えに行くところだったんだ、君はラッキーだね」

全部は理解できなかったけれど、ゆっくりと分かりやすくしゃべってくれたので、なんとなく言っている事は分かった。

あなたはボクの救世主だ!とでも言いたかったけれど「センキュー ソー マッチ!」しか出て来なかった。英語力の無さが悔やまれる。

「次はもっとゆっくりおいで」

空港につく直前にカヴァさんが笑顔で言った。

飛行機には滑り込みで間に合った。
ギリギリ過ぎて搭乗手続きでひと悶着あったけれど、なんとか飛び立つ事が出来た。全てはカヴァさんのおかげだ。

彼にとっては日常のひとコマに過ぎない出来事、もう忘れてしまっているかもしれない。
でも、ボクは一生忘れる事はないだろう。

あれから10年以上経ったが、まだニュージーランドには行けていない。
今度行くときはゆっくり滞在しようと思う。

 

 

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